野鳥の個体識別ってしたことありますか?
一年ぶりに友達に会うと「元気だったー?」「最近どうしてた?」と会話は尽きないものです。
それは、もちろんその子の名前と顔が一致していて、個体識別ができているからです(笑)
私は、よく行くフィールドや我が家の近所の野鳥はできる限り個体識別ができたらいいなと考えています。
しかし、現実はそううまくもいかず、名前はつけてみるものの「本当にこの子かな?」と不安になる時も。
今回の記事は、そんな個体識別に役に立つ論文を紹介してみようと思います。
私が、日頃の個体識別で参考にしている論文です。
完璧に個体識別できるようにならなくても、この情報を知っているだけでグッと野鳥のことを身近に感じることができると思います!
目次
野鳥の個体識別
参考文献 (興味がない方は【野鳥の個体識別】まで飛ばしてください!)
今回私が紹介する、そして日頃参考にしている論文は1988年に書かれた古い論文です。
しかし、著者が【上田恵介先生】と【樋口広芳先生】という大御所2人による共著!
それに、内容がとても充実していて、野鳥の個体識別を行う上でこの上ない資料と言えます。
著者紹介
このお二人は鳥類学界のスーパースターなのですが、ご存知ない方に少し紹介しておこうと思います。
※私の独断と偏見とお二人へのリスペクトを持ってご紹介させていただきます。あしからず…
上田恵介
現在、日本野鳥の会の会長を務めている上田先生。
立教大学の名誉教授でもあります。
上田先生といえば、やはり立教大学上田研究所が有名なのではないでしょうか?
行動学や生態学といった日本ではあまり重要視されてこなかった基礎研究に力を入れ。
若い鳥類学者たちへ基礎研究の大切さを、一緒にフィールドへ足を運ぶことで教えられた上田先生。
この上田研究所出身者の中には現在の鳥類学を牽引する学者さんが多いのですが、あのシジュウカラの言語を解明した鈴木俊貴さんがいることも興味深いです。
※余談ですが、先日鈴木先生がABEMA Primeに出演されていた時に「基礎研究が大切」とおっしゃっていたのが印象的でした。
樋口広芳
東京大学名誉教授でもある鳥類学界の第一人者。
多くの著書を手がけれていらっしゃるので、名前を見たことがある人も多いと思います。
勝手なイメージではありますが、上田先生が陽気な親しみやすいキャラで樋口先生は重厚な本格派というイメージです。
私個人的には、伊豆のヤマガラの研究やササゴイの釣りの研究などが印象的で、ちょっと古い研究ではあるものの、いまだにたまに読んだりしています。
※これも余談ですが、人気鳥類学者の川上和人先生の師匠でもあるようです。
※これも余談ですが、私は現在文一総合出版で書籍を執筆中で、作業に関わってくれている方が樋口先生の出版哲学をいろいろ教えてくれます。大変参考にさせていただいております。
論文紹介
さて、このお2人が共著で書かれた件の論文が
【個体識別による鳥類の野外調査ーその意義と方法ー】です。
この論文は1988年にStrix(野外鳥類学論文集)第7号に掲載された論文です。
このStrixは、1982年から日本野鳥の会が発行している論文集で、現在第39号が発行されています。
3300円と、一般的な感覚で言うと少しお高いのですが、購入することができるので興味ある方は調べて見てください。
野鳥の個体識別
さて、前置きが長くなっちゃいました。
これ、個体識別の内容を紹介できるのでしょうか?尺的に、ちょっと。。。
まあ、今回はこの論文を紹介したいという意図もありますしいいですよね!
ささっと、個体識別について書いてみようと思います。
野鳥の個体識別の方法
まず初めに言っておきたいのが、この論文は研究者のために書かれているということです。
ですので、国の許可が必要な方法などもたくさん書かれています。
しかし、そのような方法は一般人の方はできません。
それに、そこまで大それたことをする必要もありませんしね。
ですので、一般の方が日頃の野鳥観察を少し楽しくできる部分だけをお話ししようと思います。
身体の特徴による野鳥の個体識別
羽に出る斑紋やくちばしや足の色味などから個体識別を行います。
この方法は、種類によって識別しやすい種とそうでない種がいます。
フクロウ類
フクロウ類は、個体ごとにかなり異なる特徴を持っていることが知られています。
色味、顔盤の形、眉、額、耳羽など、さまざまな箇所で個体差があります。
また、同じ個体が決まった場所に留まったり同じ場所に渡ってきたりということも多いです。
ですので、個体の特徴を記録しておけば、来年もまた同じ個体に会えるという経験もできるかもしれません。
夏鳥のアオバズクや冬鳥のコミミズクなどは、比較的観察のしやすいフクロウ類です。
論文の中でも、この2種は個体差がはっきりしていると紹介されています。
サギ類
さて、お次はサギ類です。
サギの仲間は繁殖羽と非繁殖羽が変わることで知られています。
くちばしの色、足の色、目の周りの色、飾り羽の有無など、繁殖期のサギ類は独特の特徴が出現します。
そして、この特徴が段階的に個体差を持って変化していきます。
ですので、特に繁殖期に入る時期を見計らって観察していれば、個体識別ができると言うわけです。
コサギやササゴイ
サギの仲間の中でも、特にコサギやササゴイは個体識別のしやすい野鳥です。
コサギでは、足の黄色い部分の範囲や模様が左右で違います。
そして、個体ごとにハッキリと違いがあります。
この足の模様を基準にし、目周辺の露出具合や身体の傷など別の特徴と合わせていけば個体識別ができます。
ササゴイでは、個体によって脚の色彩が黄色からピンクまでいくかの段階で変化していることが知られています。
これが個体数が何十羽もいるとなると、脚の色味だけで覚えるのは困難ですが、少数だったらこの方法で個体識別ができると思います。
この論文には書かれていませんが、クロサギなんかもくちばしの色や脚の色に個体差が大きいです。
サギの仲間は、よく観察してみると色味に違いがあるので、野鳥の中でも個体識別しやすい種だと言えます。
ハクチョウ類
ハクチョウの仲間は、くちばしの黄色と黒との柄がハッキリと個体で違います。
特に、オオハクチョウは黄色い部分のとがり具合などで見極めが容易です。
論文によると、イギリスではコハクチョウの1羽ずつの戸籍を作っている協会があるのだとか!
日本でも、この方法で、毎年同じ場所に同じ家族群が飛来していることもわかっていますし、グッと親近感が湧くと思います。
鳴き声による野鳥の個体識別
鳴き声で個体識別ができることで有名な種はやはりキジではないでしょうか?
キジは「ケーン!」と鳴きますが、この鳴き方はハッキリと個体差があります。
私の経験では、キジが一番鳴き声で覚えやすい種だと感じます。
他にも、カッコウ、アオバズク、セッカなどが紹介されています。
この中で言うとアオバスクはすごく個体差を感じます。
「ホッホッ」だったり「ホッホー」だったり「ホーホー」だったり。
これはためにしYouTubeなんかで鳴き声を聞いてみるとわかると思いますよ!
しかし、この論文では鳴き声による個体識別の難しさが語られています。
事実、キジの鳴き声での個体識別した結果、23個体中11個体しか完全に識別できなかったのだとか。
いやいや十分でしょ!!!
研究者レベルだとこれは厳しい数字なのかもしれませんが、趣味で野鳥観察する分には十分すぎる数字です。
標識による野鳥の個体識別
最後のご紹介するのは、足環などの標識による個体識別です。
これは、一般人が勝手に足輪をつけたりすることは違法なので、ゼッタにやってはいけないのですが
様々な研究機関で足環などがつけられた個体が野生に暮らしています。
例えば、渡りの調査のために旅鳥に足環をつけたり、コウノトリなど人工繁殖種の野外放鳥の際に足環をつけたり。
ドバトだとレース鳩のために足環をつけて、それがちゃっかり逃げ出していたり。
実際に、足環をつけた野鳥は多く見かけます。
この足環などの標識については、論文でも諸問題について触れられています。
研究者への戒めもいろいろ書いてありますが、足環による野鳥個体への負荷やバードウォッチングを楽しむ人への配慮なども記されています。
しかし、この論文を読んでいると、様々なことに配慮して慎重に標識調査を行なっていることがよく伝わってきます。
確かに、野鳥観察をしていて、足環のついた野鳥を見かけると興醒めするという意見もわかります。
しかし、細心の注意を払い研究されていること。
そして、野鳥や人の未来のために研究が行われていることを考えると、個体識別できる便利な目印と温かく見守りたいですよね。
もし標識を見つけたら
さて、この記事の最後に、もし足環や首輪などをつけている野鳥を見つけたらどうしたらいいのかをお話しします。
この標識は、多くの専門家の方がフォールドで確認作業を行っているのですが、なかなか人手が足りない部分もあります。
ですので、多くの一般バーダーさんたちに広く情報を募集しています。
山階鳥類研究所がその報告を受け付けていて、必要情報を添えて連絡する仕組みがあります。
もしも標識をつけている野鳥を見かけたら、山階鳥類研究所に報告してみてください!
最後に
いかがだったでしょうか?
上田先生と樋口先生の論文を紹介するとともに、野鳥の個体識別について書いてみました。
私は、この論文を参考に、いろいろな野鳥を個体識別して楽しんでいます。
問題点や注意点なども詳しく書いてあって、とても参考になります。
過去には、コハクチョウの家族を3年連続で観察した経験や、近所に住むキジに名前をつけて親しんだ経験など
たくさんの楽しい思い出があります。
ぜひ皆さんも、野鳥の個体識別に挑戦してみませんか?
もちろん、その時は野鳥へのストレスをかけないように注意しながら!
ではまた次回。
【参考文献】
・個体識別による鳥類の野外調査ーその意義と方法ー 上田恵介 樋口広芳