日本人が最も身近に感じている鳥といえば「スズメ」が真っ先に思い浮かぶと思います。
そのスズメが、絶滅危惧種に指定されると聞いたらどうでしょう?
今回の記事は、近い将来訪れるかもしれない、そして、今まさに進んでいる鳥の危機的状況のお話です。
目次
スズメが絶滅危惧種に?
日本列島は、はっきりした四季があることや、海や島、そして森林が豊かです。
これらは、本来、多様な生態系を有している地域を意味しています。
しかし、近年の自然破壊はとてつもないスピードで進んでおり、世界的にも生物多様性が失われている地域として知られています。
コンサベーション・インターナショナルの発表によると、すでに7割以上の自然環境が改変され、失われている地域と定義されています。
そんな中、環境省が全国325ヶ所の調査地で、2005年〜2022年の18年間に得たデータから、日本の里山の生態系が急速に悪化しているという報告書を発表しました。
モニタリングサイト1000里地調査2005-2022年度とりまとめ報告書
鳥で言うと、15%にあたる記録個体数が急速に減少しているというのです。
そして、驚きなのが、スズメなどの身近な種が含まれているということです。
絶滅危惧種に相当
「スズメが減っている」という話はなんとなく聞いたことがある方も多いと思います。
しかし、今回の報告書は、データとして明確に出ているので、もはや「なんとなく聞いたことがある」といっていられない状況だと感じます。
具体的には、スズメは一年あたり3.6%減少しているというのです。
一年でこの減少率は、とても信じられないスピードだと感じます。
また、オナガ(-14.1%)セグロセキレイ(‐8.6%)ホトトギス(‐4.4%)など、私たちに馴染みの深い「普通種」が減っているというデータも明らかになりました。
これらの数値は、「環境省の絶滅危惧種の判断基準を満たしうる値」と環境省は発表しています。
※ただし、今回の結果はモニタリングサイト 1000 の調査サイトに限った結果であることから、今回の結果のみで、全国を対象とする環境省レッドリストにおけるこれらの種のカテゴリーは決定されません。
里山の環境が危ない
今回の報告書で印象的な点は、里山に生息する生き物が急速に減少しているということです。
オオムラサキ(‐10.4%)やイチモンジセセリ(‐6.9%)などの身近なチョウ類。
水辺に住むホタル類(‐1.5~‐5.7%)やアカガエル類(‐1.0~‐2.8%)。
そして、草原に住むノウサギ(‐4.7%)などの減少も目立っていました。
これらの種は、農地や草原、湿地など、開けた環境に生息する生き物たちで、日本の里山が代表的な環境と言える生き物たちです。
そして、これらの種が減っているということは、これらを食糧としている猛禽類などの鳥たちへの影響も心配されます。
これは、温暖化により生息に適した土地が少なくなったことをはじめ、人が入らなくなって里山が荒廃したり、農薬の散布が生息地を荒らしたりしている影響が大きいと指摘されています。
一方、二ホンジカのは20.1%の増加率で、狩猟者の減少やニホンオオカミの絶滅などが影響したと考えられています。
そして、ニホンジカが植物を食べつくすことでも、チョウ類や鳥類の減少に影響しているとも考えられています。
その他には、ソウシチョウ(11,4%)ガビチョウ(5,3%)アライグマ(9,2%)ハクビシン(3,1%)など、外来生物の増加もデータとして示されています。
このように、里山が本来持っている生態系のバランスが、極端に崩れているということがわかってきたのです。
日本だけじゃない
世界自然保護基金(WWF)も同時期に「生きている地球レポート」の2024年版を発表しました。
この報告書では、1970年〜2020年までの50年間で、生物多様性の豊かさを表す「生きている地球指数」が73%低下していると報告されています。
「生きている地球指数」とは、哺乳類や魚類、鳥類など計5,495種のうち、約3万5千の個体群を分析して算出した指数で、生息密度や群れの規模、巣の数、個体数の変化などを観測し「ロンドン動物学協会」がまとめたものです。
具体的には、1970年に比べ、特に河川や湖沼、湿地など淡水域での減少率が85%と顕著だったこと。
陸域は69%、海域は56%ほど指数が低下したこと。
地域別では、中南米・カリブ海が95%と最も多く、アフリカは76%、日本を含むアジア太平洋地域は60%の減少率だったことなどが報告されています。
つまり、世界中の地域やさまざまな環境で、少なくとも50%以上の生き物の個体数が減少しているということがわかります。
私たちにできることは?
世界の取り組み
この環境省とWWFの報告書は、今年の10月21日に開催された「国連生物多様性条約第16回締約国会議(COP16)」に先駆けて発表された報告書です。
前回のCOP15では2022年12月に「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択され、ターゲットの一つとして「30 by 30(サーティ・バイ・サーティ)」が掲げられました。
「30 by 30」とは、生物多様性の保全や回復のために、2030年までに陸と海の30%以上を保全しようとする国際目標です。
日本も、環境省をはじめ多くの企業や保護団体、NPO法人などが参加し取り組んでいる目標です。
今回のCOP16では「30 by 30」などの国際目標の達成に向け、各国の取り組み状況が報告されることとなります。
しかし、環境省やWWFによる最新データの公表が示すように、自然保護の取り組みの遅れが顕著と言わざるおえません。
私たちにできることは?
正直、私たち個人にできることは限られています。
私自身、何をどうしていいのか分からないのが正直なところです。
日本全国で、そして世界中でこれほどの生き物が減少していく中で、私個人に何かできるのか?といつも不甲斐ない気持ちになります。
しかし、こうして記事を書くことや、SNSで発信すること、そして、日頃の生活の中で自然のありがたみを考え、暮らしていくことがまずはやるべきことと考えています。
また、管理されていない里山の環境(二次林・人工林・ため池・水田など)の、市民ボランティアの方々による管理活動も行われています。
そういった活動を支援していくことも、里山保全の大きな力になるはずです。
mililieは何度も同じことを言っていますが、これは、生き物が可哀想だから救わなければならないという話ではありません。
私たちの住む地球が、急速に生き物の住みにくい環境に変化していっているということです。
生き物が減少した後には、必ず人間への影響が出始めます。
そうなる前にも、私たち個人個人が、少しでも意識を変えて向き合っていくことが重要だと感じます。
この記事を読んで、少しでもSNSなどでもシェアしていただき、環境問題について考えるきっかけとなればと思います。
少しでも、多くの人に考える機会になることを願っています。
ではまた。
【参考文献】
・自然環境保全基礎調査全国鳥類繁殖分布調査(2016-2021年)について / 環境省
・「モニタリングサイト1000第4期とりまとめ報告書概要版」及び「モニタリングサイト1000里地調査2005-2022年度とりまとめ報告書」の公表について / 環境省
・生きている地球レポート2022 ー ネイチャー・ポジティブな社会を構築するために ー / WWF
・日本は生物多様性ホットスポット / CLASS EARTH
・生物多様性ホットスポット / コンサベーション・インターナショナル・ジャパン (CIジャパン)
・30 by 30 / 環境省