コンテンツへスキップ
ホーム » 野鳥と自然を楽しむブログ » 【構造色】アルビノカワセミの謎を考える

【構造色】アルビノカワセミの謎を考える

少し前、白いカワセミが話題になりました。
インスタグラムでも、連日、白いカワセミの写真が上がっていて見た方も多いのではないでしょうか?

そこで今回は、白いカワセミの謎に迫ってみたいと思います。
しかし、この分野はまだ解明されていない部分もありますので、解明されている部分とそうでない部分を整理しながらお話ができればと思います。

目次

アルビノカワセミの謎

前回の記事で、鳥の羽が青く見える秘密【構造色】についてお話ししました。
もし、その記事を読んでいない方がいれば、そちらの記事から読んでいただけると分かりやすいかなと思います。

構造色についてできる限り簡単に分かりやすく記事にしています。
青いカワセミの羽色

さて、構造色の概要は上記記事から確認していただくとして、カワセミの構造色についての基本的なことを少しお話ししておこうと思います。

カワセミの羽は、ナノメートルと呼ばれる1ミリの100万分の1の大きさの、とても小さな網目構造でできています。
本によっては「スポンジ状」だったり「泡状」だったり色々な表現がされています。

とにかく、とても小さな穴がいっぱい空いた構造だということです。
これは、ルリビタキなど他の青い鳥でも概ね共通の特徴となっています。

この微細な構造が、光を散乱(四方に散らばる)させ、青く見える波長の光が強調されて見えるという仕組みです。

そしてさらに、そのナノサイズの小さな穴が、短距離秩序を持って並んでいます。
この短距離秩序が、散乱した青い光を強める良い塩梅で、より青い色を強調しているのです。

素材は何?

鳥の羽はβ(ベータ)ケラチンと呼ばれるタンパク質でできています。
この物質は、爬虫類や鳥類の表皮によく見られる物質で、鳥でいうとくちばしなどを作っている物質でもあります。

この羽ができる過程で、メラニン色素が蓄積され、βケラチンを褐色(黒っぽい)にします。
この蓄積の量や質は様々ですが、概ねこのような理由から褐色の羽が出来上がるというわけです。

これがよく聞く【カワセミの羽をハンマーで叩くと褐色になる】という理由です。
ナノサイズの微細な構造が青く見せているのですが、その構造が壊れるとメラニン色素の褐色だけが残るというわけです。

より青くみせよう!

オオルリも青い羽

本来、構造色はその構造自体が色を発現するので、その素材の色味は関係がありません
ですので、羽が色素で何色だろうと、構造が青くする構造だったら青にしか見えないのです。

しかし、カワセミの羽があんなに鮮やかな色味に見えることには色素が関係しています。

さて、ここで光による色の発色についてお話ししておこうと思います。
これが意外と理解されていなくて、ここを押さえておかないと話がわからなくなってしまうからです。

私たちは、目で光を取り入れて様々な色味を感じています。
その際、赤・緑・青と3色の光を感じとり、合成することで様々な色を識別しています。

紙に絵の具を塗っているところを想像すると、赤・緑・青と足せば足すほど紙は白から黒へ近づきます。
逆に、色を減らすほど、白に近づいていきます。

しかし、光の色味は逆で、色が多くなるほど(光が多いほど)透明(白)に近づきます。
そして、色が少ないほど(光が少ないほど)黒に近づいていきます。

つまり、絵を描くときの無色は白ですが、光の場合の無色は黒と、逆になるのです。

もし、カワセミの羽がメラニン色素を持たず無色だったとします。
もちろん構造色の青はその構造から発色します。

しかし、ある一定の厚みがある羽は、青い色が見えなくなって白く見えてしまうのです。

これはなぜかというと、羽の薄い表面だけで構造色が発現していれば青く見えるのですが、幾重にも構造が重なり合うことで、結果的に全ての色が混ざったような現象が起きるからです。

光の色を混ぜ合わせると白になる。
この法則が出てしまうからです。

さて、先ほどの絵の具の話をもう一度考えてみましょう。
鮮やかな青い色を描きたい場合は、真っ白い紙に青い絵の具を塗れば完成です。

では、光の場合は?

もうお分かりですね!
黒い下地に青い色が重なれば一番綺麗に青い色が発色するということになります。

だから、メラニン色素の黒い着色が、構造色の青をより引き立てる役割をしているということなのです。

アルビノカワセミ

アルビノとは、色素を作る遺伝子に何らかの原因があり、色素を作り出せない病気です。
ですので、メラニン色素の作り出す褐色や黒といった色を持たず、白い色が出てくるという訳です。

アルビノカワセミの場合、羽は構造色なので一見関係ないようにも思いますが、メラニン色素が合成できないため、上記のような理由で白色に見えてしまうという事です。

また【白変種】というアルビノとはちょっと違う理由で白くなる動物もいます。
最近話題になっている白いカワセミは、アルビノではなく白変種だと思います。
しかし、今回は白変種の説明は割愛させていただこうと思います。

さて、ここまでが科学的におおよそわかっている事です。
これより先は、科学者たちも仮説として述べている話です。

Dufresneという学者さんらの説をご紹介します。

この微細な穴ができる過程で、何らかの物質がナノサイズの微粒子となり、その周りをβケラチンが覆う。
そしてその後、何らかの理由でその物質が無くなり、βケラチンの外側だけが残る。
結果、ナノサイズの微細な穴が出来上がる。

いかがですか?
私は、この仮説を聞いた時に妙に納得してしまいました。
すごく理屈が通っているように聞こえます。

ルリビタキは年齢を重ねると青くなる

ルリビタキのオスは、生まれたばかりはメスのように褐色をしています。
しかし、年齢を重ねるごとに、その青い色味を増しおおよそ3歳ごろには立派な青色になると言われています。

これは「遅延羽色成熟」という現象で、世界的に見ても珍しい現象です。

なぜこのようなことが起きているのかは、まだハッキリしないのですが、青い成鳥と褐色の若鳥では争いの時の激しさが減るということがわかっています。
つまり、経験の少ない若鳥は、喧嘩をしなくても見た目で判断できるということみたいです。

最後に私の妄想を

ここで先ほどのDufresneさんの仮説を思い出して見ましょう。

【何らかの物質がナノサイズの微粒子となり、その周りをβケラチンが覆う。】
ここまでは、ルリビタキの若鳥も行っているはずです。

【その後、何らかの理由でその物質が無くなり、βケラチンの外側だけが残り微細な穴ができる。】
ここです!この過程が、若鳥ではまだ十分に行えていないのではないでしょうか?

微細な構造が青い羽色に見せる理由です。
しかし、この微細な穴が開ききれていないために、若鳥はメラニンの色である褐色をしている。

どうですか?これは私の勝手な説です(笑)

しかし、メスも褐色なことを考えると、ホルモンの分泌によって生じる何らかの物質かもしれません。
こんなふうに考えているとすごくワクワクしてきます。

今回の記事は、前回の記事を少し発展させて書いてみました。
科学で証明されていること、そしてまだまだわかっていないこと。
私は科学者ではないのですが、色々妄想すると楽しくなってきます。

ではまた次回。


【参考文献】
・青い色を示す鳥の羽を模倣した角度依存性のない構造発色性材料 竹岡敬和 
・発色原理が異なる色ー構造色ー 木下修一
・鳥の色彩と遺伝的背景 森本元
・鳥類におけるメラニンを用いた体色発現システムの分子機構 織部恵莉 吉原千尋 高橋純夫 竹内 栄

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です