私たち人間の肌の色は、メラニン色素と呼ばれる色素で肌色に見えています。
メラニン色素が多いと肌は黒く、少ないと白くなることは皆さんもご存知でしょう。
今回の記事は、青い鳥の羽の秘密である【構造色】について書いてみたいと思います。
なぜこの記事を書こうと思ったかというと、勘違いしている人も多く、ネット上の情報や図鑑の記述さえも間違っていることがあることを知ったからです。
光の世界は凄く難しく、直感的に理解できないことも多いと思いますが、出来る限りわかりやすく簡単に説明してみようと思いますので、最後まで読んでいただければ嬉しいです。
※とても簡単に説明するために、意味や内容はできる限り変えずに簡略化して説明しています。
専門的に詳しい方は、その辺りご理解ください。
目次
構造色
光とは?
先ず初めに、光について簡単に説明させてください。
これを知っていないと、構造色が理解できません。
光とは、粒子であり波でもあります。
いきなり難しいことを言ってしまいましたが、ここが最大の難関です。
これを頭に入れているだけで、この後のお話がグッとわかりやすくなると思います。
光は波
光は通常、波として太陽から地球へ降り注いでいます。
大きな波や小さな波など様々で、その波の間隔によって見える色が変わります。
間隔が広いと赤い色に、間隔が狭いと青い色にと言った具合です。
この波の間隔を波長と呼んだりします。
さらに、この波の大きさは様々な特徴や特性を発揮しています。
海の波やお風呂で自分で起こす波を想像してみてください。
大きな波は、防波堤などの障害物も回り込んで進むことができます。
しかし、小さな波だと防波堤にぶつかって壊れてしまいます。
このように、光の波の間隔が見える色だけでなく、様々な違いを生みだすのです。
粒子にもなる
普段、波として振る舞っている光ですが、観測すると粒子として見えます。
仮に、この光の粒(光子と呼ぶ)を観測できる機械があったとします。
そこに光を当て、光子を観測してみると、粒々がぶつかっているように観察されるのです。
この粒という要素がなければ、構造色は成り立たないことになります。
この光の持つ不思議な二面性。
にわかに理解し難いのですが、そういうものだと考えていただければ、色の世界がわかりやすくなります。
光による色彩
光の話の最後に、光による色彩のお話を少しだけしておきます。
私たちは、目で光を取り入れて様々な色味を感じています。
その際、赤・緑・青と3色の光の波長を感じとり、合成することで様々な色を識別しています。
紙に絵の具を塗っているところを想像すると、色を足せば足すほど紙は白から黒へ近づきます。
逆に、色を減らすほど、白に近づいていきます。
しかし、光の色味は逆で、色が多くなるほど(光が多いほど)透明に近づきます。
そして、色が少ないほど(光が少ないほど)黒に近づいていきます。
色素とは?
さて、構造色を説明する前に、色素の話も少ししておきます。
これも知っておくと、構造色のこともよりわかりやすくなるからです。
色素や顔料などは、私たちが日頃目にする様々な色の元になっています。
冒頭でお話ししたメラニン色素は、私の右手にあるホクロを黒くするだけでなく、髪も黒く、目も黒くしてくれています。
色素としては、一番身近なもので、褐色や黒といった色味を私たちの目に届けてくれる色素です。
また、顔料というのもあります。
顔料は、自然由来の色素から人間が作った、ものに色をつけるためのもので化粧品や工業製品など、様々な場面で使われている染料です。
色素が色々な色に見える理由
これらの色素や顔料は、そのものが持つ原子や分子が光を吸収します。
その時、特定の波長のみを吸収するので、吸収された波長は目に届かず、吸収されなかった波長のみが見える様になります。
例えば、鳥の羽を赤や黄色に見せているカルテロイド色素は、短波長をよく吸収します。
ですので、吸収されなかった長波長の赤い色が目に届くというわけです。
また、メラニン色素は全波長を吸収します。
ですので、メラニン色素が増えるほど、色味が無くなっていき黒くなって見えます。
構造色とは?
さて、前説明が長くなってしまいましたが、いよいよ構造色のお話に入っていこうと思います。
構造色とは、色素と全く違う方法で、特定の光の波長を私たちに見せてくれるものです。
その名の通り、光が当たった物の独特な構造が光の波長に作用して色を変えます。
この独特な構造色は5つに分類できるのですが、今回は鳥に関係のある3つの構造色についてお話ししようと思います。
薄い膜
水面に油が浮いている様子を想像してみてください。
見る角度によってギラギラと輝いて見えると思います。
赤にも緑にも青にも見えるような不思議な輝き。
これが、薄膜干渉と呼ばれる構造色です。
薄い膜の表面が光を反射させ、角度によって見える波長を変えているのです。
この時、干渉と呼ばれる波の強め合いや弱めあいが起き角度によって見える光が変わります。
波の干渉
お風呂で両手を前に広げ、水面を押して波を発生させてみてください。
右手と左手から2つの波が広がっていくと思います。
この時、両手を同じ大きさで動かすと、同じ大きさの波が発生し、その2つの波がぶつかるとより大きな波になると思います。
そして、片方の手の動きを小さくすると波も小さくなり、2つの異なる大きさの波がぶつかり合います。
そうすると、違う大きさの波はお互いに反発するように小さくなります。
このように、複数の波が重なり合うことで、強めあったり弱めあったりする現象を干渉と呼びます。
このような理由から、薄い膜の表面で反射した光は、見る角度によって干渉で強め合います。
鳥の薄膜干渉
この現象が鳥で言うとハトの首です。
鳥の羽は、羽軸と呼ばれる太い羽に、細い羽枝と呼ばれる羽が生えています。
そして、羽枝にはさらに細い小羽枝と呼ばれる羽が生えています。
ハトの場合、この小羽枝の表面を覆っている薄い膜が、薄膜干渉を引き起こしています。
ですので、見る角度によって緑や紫に見えると言うわけです。
フォトニック結晶
2つ目の構造色はフォトニック結晶です。
これは、光をある特定の法則で反射(屈折)させる構造を持った結晶のことで、光の屈折する角度によっては色々な色が見えてきます。
そもそも結晶とは、分子や原子が規則正しく並んでいる状態のもので、この規則正しく並んでいる状態が光に影響を与えると言うわけです。
フォトニック結晶は、ナノメートルと呼ばれる1ミリの100万分の1の大きさのとても細かい物質で構成されている結晶です。
このぐらいの大きさになってくると、光の波長に作用するサイズで、ある波長は反射させ、ある波長は干渉しと法則が生まれます。
この法則が、その結晶の個性であり、青く見える結晶や緑に見える結晶など様々です。
宝石のオパールが有名で、オパールはナノ構造のフォトニック結晶でできているため、美しい色に見えると言うわけです。
鳥のフォトニック結晶
この構造で発色している鳥がクジャクです。
クジャクの羽は、ナノサイズで細かいメラニン顆粒が規則正しく並んでいます。
このメラニン顆粒の並び方が、羽の部分部分で違うので、青い部分や緑の部分など様々な色が発現していると言うことです。
すごいですよね!
光散乱
最後にご紹介する構造色が光散乱です。
これは一番身近な構造色でもあり、空が青く見える原因にもなっています。
光が空気中にある微粒子にあたり、散乱(四方に散らばる)することで空は青く見えています。
最初にお話しした、防波堤にあたる波の話を思い出してみてください。
大きな波は防波堤を回り込んで進むのに対し、小さい波は防波堤にぶつかって四方に砕けます。
このような理由から、青く見える短波長だけが散乱し空は青い色に見えているのです。
反射ではない
ここで一つ注意しておかなければいけないのが、光の反射とは違うということです。
反射は、光があるものにあたって跳ね返ることを言います。
その場合、薄膜干渉のところでお話ししたように、見る角度によって反射率が変わってしまいます。
しかし、空の色はどの方向から見ても青く見えますよね。
それは、光が散乱しているので、角度によって見え方が変化しないと言うことなのです。
鳥の光散乱
この光散乱が起きているのがカワセミです。
カワセミの羽は、ナノレベルで細かいスポンジ状の穴が空いています。
この微細な構造が光を散乱させ、青い波長のみが見えるという構造色になっています。
しかし、光散乱だけでは説明できない部分もありました。
そこで、1998年にPrumという学者さんが新発見をします。
この微細な穴は、ランダムに並んでいるのではなく短距離秩序を持って並んでいることがわかったのです。
この秩序(法則性)が、散乱した青い光を干渉によって強め合っているのです。
この短距離秩序を持ったナノ粒子の集合体を【コロイドアモルファス集合体】と呼びます。
つまり、カワセミの羽の色は光拡散をより進化させた特殊な構造色というわけです。
構造色の研究は進む
さて、長い記事になってしまいましたが、構造色をできる限り分かりやすく書こうと思って書いてみました。
光という存在がそもそも難しいですし、色という概念もすごく難しいです。
絵の具の色の話と、光の色の話ではまた少し違います。
そんな全てを説明しようと思うと、もう本が一冊書けるほどの情報量になってしまうかもしれません。
ですので、今回はコンパクトに、必要な情報だけに絞って解説してみました。
主に鳥の構造色のお話をしてみましたが、そもそもこの話は物理学や量子光学などの分野で、生物学や鳥類学の分野ではありません。
ですので、本当に理解しようと思うと、生き物以外の勉強をするということになってしまいます。
その証拠に、この分野は鳥類の分野より、新しい塗料の開発や、化粧品、繊維素材などの開発の分野で活発に研究されています。
今現在主流の顔料は、環境負荷も高くエネルギーを無駄にしていることがわかっているので、自然由来の構造色が次世代の発色素材として注目されているのです。
鳥の羽の色の仕組みが、未来の新しい様々な技術に応用されていると考えると、近所のカワセミを見る目も変わってくる気がします。
ではまた次回。
【参考文献】
・青い色を示す鳥の羽を模倣した角度依存性のない構造発色性材料 竹岡敬和
・発色原理が異なる色ー構造色ー 木下修一
・鳥の色彩と遺伝的背景 森本元