今回は野鳥観察をしていると時々耳にする【ラムサール条約】について詳しくご紹介したいと思います。
野鳥は近年、すごい勢いで数を減らしています。
一部の種では、救済活動も充実しており個体数を増やしているものもあります。
しかし、以前として、野鳥界全体を見渡してみると減少傾向にあるのが現状です。
当たり前ですが鳥は空を飛びます。
そして、国境など関係なく自由に世界中を移動しています。
つまり、国家間の連携が本当の意味で野鳥を守る為には必要不可欠なのです。
例えば、日本とロシアの間では【日露渡り鳥条約】というのが結ばれています。
これは、双方が調査結果や保全活動内容などの情報交換を行い、連携して野鳥を守っていこうとする取り決めです。
他にも、ボン条約(移動性野生動物種の保全に関する条約)は世界の131の国と地域が加盟している野生動物保護条約です。
(ちなみに、この条約には日本は非加盟です)
このような国家間の連携はとても重要なことと考えます。
そして、今回ご紹介するラムサール条約も、国際的に広く知られている条約の一つです。
目次
ラムサール条約
渡鳥の移動範囲
まず、一般的な渡鳥がどのような生活をしているのか押さえておきましょう。
一年を通してどのように移動しながら生活しているのか?
これを理解していないと、この条約の重要性も見えてきません。
一般的に、渡鳥は越冬地と呼ばれる比較的暖かい場所で厳しい冬を過ごします。
そして、春になると繁殖地と呼ばれる北部のエリアに移動します。
その途中では中継地と呼ばれるエリアに立ち寄り、休憩したり栄養を補給したりします。
そして、夏も終わり秋になると、また越冬地に移動するという生活を行なっています。
マナヅルの場合
では、渡鳥を衛星追跡し、その研究結果を報告したことで有名な本【鳥たちの旅 / 樋口広芳著】より
鹿児島県出水市のマナヅルがどう移動しているのかをご紹介してみましょう。
鹿児島県出水市は、日本一の鶴の飛来地として有名です。
出水市の公式HP
出水に飛来したマナヅルに、発信器を取り付け衛星追跡を行いました。
その結果、約2466Kmにも及ぶマナズルの大移動の様子が明らかになったのです。
出水を出発したマナズル達は、九州の西側を通過し朝鮮半島に向かいました。
そして、ちょうど韓国と北朝鮮の境である非武装地帯で一休み。
その後、二手に分かれます。
一方のグループは、北朝鮮の東海岸沿いを北上し、中露国境付近にあるハンカ湖に向かいます。
そして、もう一方のグループは、北朝鮮の西海岸を北上し、黒竜江省にあるザーロンへと到着しました。
つまり、この結果だけ見ても
- 日本の出水
- 南北朝鮮の非武装地帯
- 中露のハンカ湖
- 中国のザーロン
と4箇所のポイントになるエリアがあることがわかります。
つまり、マナヅルが生きていくには、少なくともこの4箇所が必要ということです。
一年を通して同じ家に住んでいる我々には想像し難いことですが
3〜4つの家を持っているようなものです。
そこで、日本・南北朝鮮・中国・ロシアと5カ国の協力があって初めてマナヅルの生活を守れるということになります。
このように、国家間の連携が自然環境を守る上でとても重要なこのなのです。
ラムサール条約の発足
ラムサール条約は正式名称を【特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約】と言います。
凄まじく長い条約の名前です。
そこで、一般的には、その条約が採択された地であるイランのラムサールという都市名をとって呼ばれています。
主に湿地を守る条約で、湿地のの保全と再生・湿地の賢明な利用・湿地を通した交流と学習
この3つの理念がこの条約の柱になっています。
現在、世界で172カ国2435箇所の湿地が登録されています。
参加している各締約国は、この条約に基づいて規定通りに湿地の保全や利用を行わなければなりません。
また、3年に一度締約国間の会議が開催され、活動状況の報告や研究結果の共有などが行われています。
1971年に発足したこの条約会議は2021年に50周年を迎えました。
しかし、世界的新型コロナウイルス感染を受け、第14回目の会議は延期となり
一年後の今年、中国の武漢での開催が決定しています。
日本の登録状況
日本では現在、全国53箇所の湿地がラムサール条約に登録されています。
去年(2021年)に先ほど紹介した鹿児島県出水のツルの越冬地も新規登録されました。
さらに現在進行形で、未登録の湿地でも登録を目指した運動が行われています。
しかし、登録するまでも一筋縄ではいかないのが現状のようです。
日本の場合
- 国際的に重要な湿地であること(国際的な基準のうちいずれかに該当すること)
- 国の法律(自然公園法、鳥獣保護管理法など)により、将来にわたって、自然環境の保全が図られること
- 地元住民などから登録への賛意が得られること
この3つの条件を満たしていなければ登録申請ができません。
この3つの条件は、すごく合理的な条件に思えるのですが問題もあるのです。
例えば、東京湾でただ一箇所原風景(自然のままの海岸線)が残されている盤洲干潟は
上記の項目の2と3を満たしていないことから、ラムサール条約への申請が行われていません。
東京湾で唯一の原風景だったら2の項目は満たせるのでは?と思うかもしれませんが
千葉県の工業地帯開発計画にかかっているため、将来的にこの海岸線はなくなる恐れがあるのです。
個人的には、全国的にみても最大級の砂質干潟なので、工業地帯になんかにして欲しくないのですが
今後、もっと国民の環境保全意識が高まり、保全の動きに向かっていくことを願うばかりです。
湿地の重要性
ラムサール条約の定める湿地とは
湿地帯とは、広義には湿った土地ということになります。
しかし、ラムサール条約の定める湿地はもう少し具体的に規定されています。
具体的には、湿原、湖沼、ダム湖、河川、ため池、湧水地、水田、遊水池、地下水系、塩性湿地、マングローブ林、干潟、藻場、サンゴ礁このようなものを湿地と呼びます。
この湿地ですが、自然界の生態系や環境においてとても重要なことがわかると思います。
しかし、残念なことに長い年月をかけ、人類は世界中の湿地を壊してきました。
前述の盤洲干潟がいい例ですが、芦原が広がり広大な干潟があるだけの土地は、人間にとって何のメリットもありません。
いや、メリットがあるように見えないのです。
ですので、もっと有効利用しようと、埋め立てたりして工場地帯や商業エリアに変えていってしまうのです。
湿地の重要性
人間にとって、一見利用価値のないように思える湿った土地ですが
自然の生態系や環境保全という観点から言うととっても重要な地質です。
まず、湿地は多種多様の生命を育むゆりかごです。
実際に、地球上の全生命体の40%ほどが湿地帯に生息していると言われています。
魚類、哺乳類、昆虫、鳥類、爬虫類、両生類と様々な生き物のゆりかごです。
また、世界中の植物の生息地でもありますし、多くの生き物が湿地で産まれています。
また、水の循環、濾過という観点からもとても重要な地質だと言えます。
地球上の水分の97%は海水です。淡水はわずか3%、しかもそのほとんどが凍っています。
その貴重な淡水を蓄え、地下に流し、濾過する役割を担っているのが湿地帯です。
湿地がなくなるということは、地球上のほとんどの生物活動が停止することを意味するのです。
ラムサール条約を広めよう!
ラムサール条約の重要性が少しでもわかっていただけたでしょうか?
しかし、この条約の存在を知らない人がほとんどだと思います。
それに、湿地のの重要性も広く認知されているというわけではないと思います。
まずは少しでも多くの人に知ってもらうこと。
そして、人間に直接必要がなくても、自然界にとって重要なものがあること。
そういうことをもっともっと人間は勉強していく必要があると思います。
先ほどご紹介したマナヅルの渡りの話に戻りますが
マナヅルの通過するポイント、出水・ハンカ湖・ザーロン3つともラムサール条約に登録されています。
また、南北朝線非武装地帯は、皮肉にも人間の立ち入りが禁止されて現在野生動物の楽園になっているのだとか。
今、ロシアは戦争問題で世界中から非難を浴びています。
朝鮮半島も、歴史的に多くの問題を抱えているのが現状です。
しかし、地球の環境あっての国家ですし人種です。
人間のわがままや国家や人種などの人間の都合で、地球の環境を壊してはいけないのです。
ぜひこの機会に、湿地の大切さを知っていただきたいと思いますし
多くの貴重な原風景が壊されずに残っていくことを願っています。
最後に、よりラムサール条約について、そして湿地について知りたい方へ
いくつか私がいいなと思った記事をリンク貼っておきます。
時間があるときに読んでいただければ、より深く湿地の重要性について理解していただけると思います。
World ECONOMIC FORUM 湿地帯が生物多様性や気候変動の鍵となる理由とは
ではまた次回!
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