水田は私たち日本人にとって、とても馴染み深い原風景です。
しかし実は、人間だけではありません。
野鳥を始め、多くの野生動物にとっても水田は、大切な生活の一部なのです。
昔の人は、水田を通し、野生動物とうまく共存をしてきました。
そして、水田は日本の重要な生態系の一部となっていったのです。
今回は、その水田と野鳥の関係について記事にしてみようと思います。
目次
日本の水田
水田と日本人
稲作は、約3000年前に日本に伝わったと言われています。
元々、日本は雨量が多く、洪水の多い国で、全国至る所に湿地がある土地でした。
後背湿地がその代表で、梅雨時期に川が氾濫してできる湿地です。
その湿地帯が稲作に適しており、日本人は水田をうまく作ることに成功したと言われています。
しかし、何も手を加えないわけにはいきません。
なぜなら、稲作にとって大切な時期の梅雨時期にまた氾濫してしまうからです。
ですので、堤防や水路を作り、水の量をコントロールすることにしました。
こうやって、元々あった湿地という環境を生かし、手を加えることで稲作文化は発展していったのです。
水田と野鳥たち
では、野鳥たちにとっての水田はどうでしょうか?
日本人が稲作を始める前は、湿地を多くの野鳥たちが利用していました。
ケリやタシギなどのチドリ目たち、白鳥やカモなどのカモ目たち、それらを狙うタカ目の猛禽類。
湿地は、日本の土地が育んだ揺籠のように、多くの生き物を育んできたのです。
しかし、稲作が始まると状況が少し変わってきました。
稲刈り後に出る落ち穂などは、野鳥にとって貴重な栄養源になります。
そして何より、一年を通して安定して維持される水田は、野鳥たちにとってプラスになったと思います。
水田の周辺に、ねぐらにできるような湖沼や干潟などがあれば、彼らは後背湿地が無くなることを問題にしなかったと思います。
このように、約3000年間かけて、日本人と野鳥たちは水田を共有する仲間になっていったのです。
農家と生き物のいい関係
水田の生態系
水田は多くの野生動物の命を育んでいます。
ミミズ、カエル、クモ、トンボ、ドジョウ、ヘビ、サギ類、猛禽類さまざまな生き物が暮らしています。
この生き物たちは、それぞれ食べたり食べられたりといった関係ですが、お互いに力を合わせて生きている関係でもあります。
どの生き物が欠けても、逆に増えすぎても、このいい関係は崩れてしまいます。
例えば、カエルがいなくなったとしましょう。
カエルを食べていたヘビや野鳥は食べ物が無くなって死んでしまいます。
逆にカエルに食べられていたクモやトンボの子供は増えます。
しかし増えすぎると、食糧の奪い合いが起きてしまい、ゆくゆくは滅んでしまう運命です。
これらの生き物たちが、バランスよくいることで、水田の生態系は維持されているのです。
人間も仲間の一部
この水田の生態系の話は誰もが一度は聞いた事があるかもしれません。
しかし、人間もその中の大切な仲間って話は、あまり触れられていないように感じます。
そもそも、水田を作って管理しているのは人間です。
人間がいなくなると水田そのものが無くなってしまい、生き物は住めなくなります。
そして、ミミズは水田の土壌を肥沃にするお手伝いをしています。
カエルは、イネを食べてしまう害虫を駆除するお手伝いをしてくれます。
野鳥は、生態系のバランスを保ってくれ、糞は貴重な肥料としてミミズの餌になるのです。
昔の人は、そのことを理解しており、多くの野生動物と共存して稲作をおこなっていたのです。
人間がいなくなると生き物は困る、生き物がいなくなると人間は困る。
水田を通して、人と野生動物は繋がっている存在だったのです。
人の裏切り
ここから少し悲しい話になってしまいます。
みんなで力を合わせて生きていた水田仲間たち。
しかし、自分達だけの利益を追求する裏切り者が現れてしまいました。
それが人間です。
稲の生産量を上げるために、人工肥料を使い始めました。
そして、耕運機など機械を導入し、大規模に水田を管理し始めました。
この事が、水田仲間たちにとって転機となったのです。
冬季湛水の減少
冬季湛水
数十年前の水田と、今の水田で大きく違う事があります。
それは、冬の田んぼに水が張ってあるかいないかです。
稲作って夏のイメージがありますよね?
でも実は、冬の時期がとても重要で、夏に栄養を使い切った田んぼは、冬にメンテナンスをする必要があります。
それが冬季湛水です。
冬季湛水とは、冬の時期に水田に水を張り、藁を一面に敷くことで、田んぼの土を肥沃にする作業を言います。
水を張ることで、ミミズや微生物などが増え、それを食べるカモたちが多く飛来します。
ミミズやカモたちが、冬の間土を肥沃にしてくれるのです。
なぜやめたの?
冬季湛水は、実はとても面倒な作業です。
冬の間、水をただ張りっぱなしにすればいいというわけではありません。
水が多すぎると、土が柔らかくなりすぎて困ります。
また、生き物が増えすぎると、栄養過多になってしまい夏の稲作がうまくいきません。
ですので、冬の間注意深く水田を管理し、水の張り具合を調整する必要があるのです。
しかし、費用や耕運機の登場で、この作業が必要なくなりました。
冬に田んぼを放置していても、稲作前に必要な分の栄養を補給し、必要な分の硬さになるようにかき混ぜれば良くなったのです。
こうして、冬季湛水は減っていくこととなったのです。
野鳥の減少
タガメやアマガエルやドジョウが減っているという話は聞いた事があるかもしれません。
今、水田を利用している多くの動物たちが絶滅の危機に瀕しています。
そして、冬に水田を利用していた多くの野鳥たちも数を減らしています。
カモの仲間達がその多くを占め、マガンやヒシクイをはじめ冬鳥の減少が顕著です。
ここで思い出してほしいのが、水田仲間が仲良く力を合わせて暮らしていた様子です。
みんなが力を合わせて、生態系を守って暮らしていました。
どの種が欠けても、その生態系は壊れてしまう関係だったと思います。
それは人間も同様なのです。
人間の裏切りが、水田の生態系を壊し、ゆくゆくは人間の首を絞めることにつながってしまいます。
野鳥が減っているのは、その危険信号なのです。
この危険サインに気づき、水田の生態系を見直す時期に来ていると思います。
日本の生態系を守れ!
実は、日本は【世界生物多様性ホットスポット】に指定されています。
これは、生物多様性が高いにもかかわらず、人間活動によって破壊の危機に瀕しているエリアのことです。
つまり、日本の生態系は世界的に見ても危険な水準にあるということです。
つまり、我々日本人の暮らしが脅かされているということでもあります。
もう一度、このことを考え直す時が来ていると私は考えています。
このサイトを見ると、ホットスポットのことがよくわかります。
最後にご紹介しておきたいと思います。
ではまた次回!
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【今回使用した機材・画材】
ステッドラー水彩ペン
ホルベイン色鉛筆
NIKON D500
Nikkor AF-S 200-500mm f/5.6E ED VR